月塞がり

サークル LoastedSeaweed

高遠るい先生のサイン会へ行ってきたよ

 漫画家の、高遠るい先生のサイン会。
 たまたま近所というか、住んでいる八王子の駅前の、いつものくまざわ書店で告知されていた。すぐに予約した。
 この度の第9巻で第1部終了となったCYNTHIA THE MISSION単行本発売に際し行われるもので、9巻単行本にサインをいただけると聞いた。
 しかし当日、会場たる書店へ出向くと、係りの方がサインと好きなキャラクターを描いてくださると案内され焦った。

 そも、CYNTHIA THE MISSION(以下シンシアと略)は日本に訪れた中国暗黒街の殺し屋の少女シンシア・ロウと、格闘家たちの繰り広げるたたかいを描いた格闘漫画である。
 確か、出会った頃には既刊が数冊、漫画を読み始めて間もない自分には衝撃の連続だった。
 美少女キャラが本格的な格闘アクションを繰り広げ、血を流し骨を折り正義を問う。様々な要素が奔放に詰め込まれた漫画だ。キャラクターも色濃い。敵も味方も、死んだヤツも生き残ったヤツもみんな好きだ。

 だから、どれかひとりを選べというのは難しい。
 ようやく決めたが、とっさに名前が思い浮かばず、後ろの人に教えてもらった。
 
 ブリギット・マクラウド。
 国際手配のテロリスト、とWikipediaには紹介されている。左腕を義手に改造していて、実はその腕はシベールに奪われたもので、そうして下僕になったのだが、彼女らの倒錯的な関係というより、欠損という設定に加えてブリギットの徹底した戦いぶりが好きだった。単なる格闘シーンでない、それ以上の強いメッセージを感じた。
 彼女のあの描かれっぷりが好きだ。そこが自分の、高遠るい先生の好きな点のひとつだ。どこにも容赦がないのだ。

続きはネタバレになるかも知れない。

 唐突だが、ブリギットは物語上突然死ぬ。たたかいに敗れるのだ。
 話の流れ的に、ここからまだまだ活躍するんじゃねーかと思って読んでいたら(一応、便宜上の表現だが彼女は悪役として登場しシンシアらとたたかう)、敗退した。そして生き返ってまた死ぬ。
 たたかい、敗れ、蘇り、最期は非情なシベールのために再び死んでしまうのだ。

 これ以上語るにはもう一度単行本を読み返す必要が出てくる、というか読みたくなってきたので、そろそろサイン会の話にもどろう。
 会場では高遠先生と一迅社編集部の方々の前にイスが用意されていた。
 サインをいただく間そこに座らせてもらうというものすごい丁寧な対応だった。座ると目前に先生が座っている。当たり前だが、すごいことだった。
 サイン中に、高遠先生と参加者は割りと会話を交わすことが出来(先生は非常に気さくな印象だった)、みな談話されていた。
 自分は名前の読み方などを聞かれた後、ブリギットについての感想を伝えた。突然死んでしまったので驚いた、と。

 すると先生は、
「人間誰でも突然死にますからねー」と仰り、軽く笑った。
 続けて、
「突然死ぬし、誰に何が起こるかわかんない。でももしかしたら、逆に、突然……」と、ブリギットのリボンから描き始めてくれた。

 俺はどぎまぎしながら、やっと
「その容赦の無さが好きです」
 と伝えた。すると先生はこう返してきた。

「ところで、そのー、うなりゅえさんはどっち派? 普段、割と、死にたい派? それとも……」
 これには困った。
 到底初対面で発せられる質問ではない、と思う。けれど、こんな機会そうそうあるものでもなかろう。
 こういう時こそ、日ごろから想う一言を言えなくてはいけない。さらにこの場ではシンシア読者っぽいことを言うべきだったろう。
 テーブルに目を落とすと、イラストの方は、顔の輪郭から目入れに入っていた。くりっとした目がやっぱり可愛い。

 なんとか一息おいて、
「そーですね。割と、毎日死にたがる方ですね」
 と正直に答えた。

 それに先生は、
「あー、それはイカンね。長生きしちゃうよー、そゆ人は」と笑われた。

 全くその通りだと思う。ろくでなしばかりが生き残る世の中だ。
 でも、お陰で先生にブリギットちゃんを描いてもらえているわけで、しかも"lunaryueさんへ"などと自分のIDまで描かれていて……。
 おかしな幸福感があふれてきた。一気に緊張が解け、思わず笑ってしまった。
 先生も、ふっふふと笑いながら、ちょうどそこで、「どうぞ」と本を手渡してくれた。ブリギットちゃんも笑っていた。うれしい。
 お礼を言って、退場した。刺激的な体験だった。
 
 ああ、俺は割と死にたがりなのに、シンシアに出会ってからずっと、なんだかんだで今日まで生きてきたんだなー、とか、浅いんだか深いんだかよくわからない感慨に耽りながら帰り道を歩いた。
 その夜はしばらく眠れなかった。
 生きるか死ぬかで、この街にたどり着いた日のことが思い浮かんでは消える。
 それでも、次に目を開けると朝だった。
 俺の、生と死の、昨日から明日への往復はまだ続くらしかった。たたかおう。また明日も。

 高遠先生、どうもありがとうございました。